「さあ、行きましょうか」
「…はい?」

突然黒子くんに呼び出されたかと思えばこの台詞。吹き荒れる風に髪が乱れるのも構わず素っ頓狂な声をあげた。
…一体どうしたんだろう黒子くん。日曜の朝から呼び出すというのもおかしいけど私に行き先も伝えず手を引いて歩くなんて。そりゃあ今日は私の誕生日だけど。まず黒子くんがそれを知ってるのか分からないし祝われるほどの仲でもない。ような気がするけどどうなんだろう。

「どこに行くの?」
「内緒です」

私の手を引いたままそう言った黒子くんに更に首を傾げる。これが火神だったらふざけてんじゃねぇってど突いてるところだけど黒子くんにはそんなことできない。内緒、だなんて可愛い。何となくそんなことを思いながら連れられるまま歩いた。
しかし何でこうも風が強いんだろう。私が花粉症じゃなくて良かったよ。きっとひどいことになってた。黒子くんは花粉症じゃないのかな。
そういえば私って黒子くんの事全然知らない。

「突然呼び出して、すみません」
「びっくりしたよ」
「今更なんですけど、大丈夫でしたか?先約とか…」

本当に今更、おかしなことを言うんだなぁ。不安げな目を向ける黒子くんに思わず噴き出した。そんなことを今になって心配するなんて。笑い混じりに大丈夫だと言えば黒子くんは不服そうな表情を浮かべた。笑うのは失礼だったろうか。一瞬そう思ったけど再び何とも無かったように歩き出したので安心した。
それにしてもどこへ行くんだろう。できれば屋内がいいなぁ。何でって風が強すぎるから。こんな風の中でも冷静な黒子くんに感心しつつ。

「ここです」

黒子くんがそう言って止まる。目の前には家。…誰の家?疑問符を浮かべる私をよそに黒子くんは涼しげな顔でインターホンを押した。どうやら黒子くんの家ではないらしい。
誰の家?と尋ねると肩を竦めるだけで答えてはくれなかった。ドタドタ、という足音が近づいてきたかと思えば勢いよく開く玄関のドア。驚く暇もなく。

「誕生日のプレゼントは常備しておかないとな!ってことでなまえちゃん誕生日おめでとう!」
「……い、伊月先輩!?」

出てくるや否やダジャレと思われる言葉を発した人に思わず目を見開いた。ここって先輩の家だったんだ…。驚いた。
状況理解に苦しみ硬直する私に伊月先輩は笑った。そしてどこからかラッピングされた四角形のものを取り出すと私に持たせる。
…これ、何だろう。興味津々にそのプレゼントを見つめていると伊月先輩は自信満々に言い放った。

「オレのネタ帳完全版!大事にしてくれよ」
「………………はい」
「何その間っ!?」
「じゃあ次行きます」
「黒子?ちょっと早くね?」

伊月先輩の引き止めを半ば無視していく黒子くんの後を慌てて追う。途中振り返って先輩にお礼の言葉を、一応。ひらひらと手を振ってくれた先輩に頬が緩んだ。
でも、これってどういうことなんだろう。もしかして、私の誕生日を祝うため?そんな、まさか。思い上がりすぎかもしれない。…でも。
伊月先輩いわく完全版であるネタ帳をぎゅっと抱きしめる。いや、ネタ帳を貰って嬉しいわけではないんだけど!決して。ただ、先輩の気持ちが何より。
ふと私の手を引く黒子くんと目が合う。

「伊月先輩らしいプレゼントですね」
「うん。これ自分でラッピングしたのかな」
「かもですね」

くすりと笑った黒子くんは何だかかっこよかった。
そうして二人で歩くこと数分。たどり着いたのはどこか見たことのあるジムだった。あ、私ここ知ってる。ジムの扉をノックする黒子くんを見ながらその人物を思い浮かべた。
開く扉と、そこから姿を現した三人に目を輝かせる。

「誕生日おめでとう!なまえ!」
「おめでとうなまえ」
「…おめでとうさん」

リコ先輩、木吉先輩、日向先輩の順で祝福の言葉を告げられる。えっ、リコ先輩ならまだしも…二人まで!なんて豪華な面子なの…!?感動によろける私をすかさず黒子くんが支えてくれた。王子さまっていたんだ…。と、別の感動に浸りつつ。
本当に、今日はどうしてこんなに。

「いやぁ急ですまんなぁ。驚いただろ」

木吉先輩はその大きな手で私の頭を撫でながら笑う。

「あ?これ伊月からか」

私の手の中の完全版ネタ帳を見るなり怪訝そうな顔をした日向先輩に苦笑いを返した。

「でも安心してくれていいわよなまえ!私たちからのはとっておきだから」

そう言って胸を張るリコ先輩。その言葉にどきりとした。ま、まさか…。伊月先輩だけでなくリコ先輩たちからもプレゼントを貰えるというのか。なんて贅沢な!これって夢?こんなことってあるの?
胸を高鳴らせる私に差し出したのは大きな白い箱。どんなもんよと言いたげなリコ先輩の表情とは裏腹に、木吉先輩と日向先輩の顔は曇っていた。
…え?これ……。
戸惑いを覚えて黒子くんを見れば一瞬顔面蒼白になった後、ぎこちない声色で言った。

「…あ、ありがとうございます。でもそろそろ僕たち行かないといけないので…」
「そう?残念ね!まぁ、明日にでも感想聞かせてね。今回のは自信作のケーキなんだから!」
「うわぁああリコ先輩本当にありがとうございます!」

逃げるようにして去る私たちへ二つの同情の目が向けられていた。どうして二人がいながらこんなことに!気持ちはすごく嬉しいのだけどリコ先輩特製ケーキって。嫌な予感しかしない。
逃げ切った、と言わんばかりに汗をぬぐった黒子くんと困惑する私。どうしようこのケーキ。ケーキとは名ばかりで爆弾を持っているような気になる。明日の私が無事であることを願う。
ああ、そうだ。次の目的地へと向かうらしい黒子くんに声をかける。

「これ、一緒に食べようね」
「…え?いや、でもそれはなまえさんのですし…」
「食べようね」
「はい…」

よし。
黒子くんの手を握り返しながらへらりと笑う。爆弾…じゃなかった、ケーキは黒子くんが持ってくれた。何だか黒子くんとこうして歩くのって不思議だなぁ。ちょっと楽しい。いや、ちょっとじゃない。すごく楽しい。
今年の誕生日は日曜で、誰にも会えないものかと思ってたから。嬉しい。そんなことを考えつつ。
公園にさしかかったところで、黒子くんが立ち止まった。公園?

「あ、いました」
「え?」

ブランコ付近にいた二人がこちらに気づくなり走ってくる。誰だろう。
どんどんと近づいてくる姿にあっと声をあげた。勢いよく踏み切った後飛びついてくる人、もとい小金井先輩は眩いばかりの笑顔を浮かべて元気に言った。

「誕生日おめでとーなまえー!元気かー!水戸部もおめでとうだって!」
「おわ、小金井先輩…水戸部先輩!」

私に抱きついた小金井先輩の後から水戸部先輩もやってきてほほえみを向けた。水戸部先輩まで祝ってくれるなんて。感動しながらも小金井先輩の体重に堪えていると黒子くんが静かに先輩の名を呼んだ。それを聞いた小金井先輩はごめんな、と言ってから私から離れる。身体が軽くなった。
それにしても今日はたくさんの人に会えるなぁ。しみじみと感心していると水戸部先輩が私に大きな袋を渡した。プレゼント!

「可愛がってね、だって!」

中にはうさぎのぬいぐるみが入っていた。か、可愛い…。水戸部先輩相変わらずセンスいいなぁ。今日貰ったプレゼントの中で一番嬉し…いやいや。ぜんぶ嬉しいけどね!
感激しつつ水戸部先輩にお礼を言う。水戸部先輩は柔らかい笑みを浮かべてから私の頭をぽんと撫でた。お、おわぁ…。

「じゃあなまえ、誕生日楽しんでな!」
「ありがとうございます小金井先輩、水戸部先輩」

手をぶんぶん振りながら走っていく二人に頭を下げる。すごく、いいものを貰ってしまった。思わず顔がゆるゆるになる。
黒子くんの口元が弧を描いたのを横目に、うさぎのぬいぐるみとネタ帳を腕に抱える。そして再び私たちは歩き出した。黒子くんはどうやら、今回の企画のナビゲート役だとかそんな感じみたいだ。大変そうなのに。黒子くんって優しいんだなぁ。

「このぬいぐるみの名前はテツヤ三号にしよう」
「何ですかソレ」

二号は既にいるから三号だよ。可愛い。
黒子くんは三号と私を交互に見やった後小さく笑った。黒子くんって思いの外よく笑うんだね。試合で笑うところはよく見るけど普段の生活ではあまり見たことがないような気がしてた。新発見である。
公園から歩くと十数分。目の前に大きな建物が見えてきた。どこだろうここ。高級マンションのようだけど。黒子くんが隣で誰かに電話をかけていた。
そうしてまた数分後。

「ようなまえ!黒子!」

高級マンションの中から火神が出てきた。手をあげて意気揚々とこちらへ近付く火神に私は唖然としてしまった。
…ここに火神が住んでるの?嘘でしょ?そんなことがあっていいはずないよ。だって私火神のことゴリラだと思ってたんだもん。もっと檻みたいなところに住んでてほしい。
…色々な意味で負けた気がした。がっくりうなだれる私に首を傾げながら火神はあくまでも純粋に。

「Happy Birthday?どうしたんだ?」
「発音よくどうもありがとう。ちょっとその眉毛むしってもいい?」
「なんだよいきなり!」

私から数歩距離を置いた火神にとりあえず謝って彼を見つめる。一体火神はどんなプレゼントをくれるつもりなんだろう。バナナじゃないといいな。せめてリンゴ。
そう思いながら突っ立っていると火神はおもむろに私へ紙袋を渡した。プレゼントだ…。本当にプレゼントくれるんだ。驚いた。この見た目からして食べ物ではないようだけど。良かった。
恐る恐る紙袋の中を覗く。

「………………あのさ」
「似合うと思うぜ!じゃあな!」

逃げるように戻っていった火神に顔がひきつった。あの野郎。
「何だったんですか?」
首を傾げる黒子くんに中身を見せるとああ、と微妙なリアクションをされた。当然の反応だと思う。

「バースデーメガネって…」

これならまだバナナのほうが良かったかもしれない。
でもまあ、一応貰ったのだから。という私の寛大な心により、バースデーメガネは私に装着されたのである。黒子くんが横で噴きだしたけど私は気にしなかった。あとで写真とって送ってあげよう。
外すのも何だか勿体なかったのでバースデーメガネをかけたまま黒子くんの次のナビゲートを待つ。
黒子くんは若干私に笑いそうになるのを堪えながら口を開いた。

「お誕生日ツアーはこれで終了となります」
「はい!」
「…が、」
「うん?」
「これより僕の独断デートが始まります」

そう宣言した黒子くんに正直意味が分からなかった。
けど、妙に真顔で私に手を差し出した黒子くんの手を握り返さずにはいられないと思った。

「誕生日おめでとうございます。プレゼントは僕の一日です」

爆笑した。


ゆりさんお誕生日おめでとうございます!
黒子といいつつ気が付けば誠凛のようになってました。
オチが黒子ならいい!そう信じて疑いません。すいません。
この度は企画参加頂きありがとうございました〜!
よいお誕生日をお過ごしくださいませ!

2014.03/23

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